惣譽酒造株式会社

大谷石の蔵

2017
64
Sun

惣誉酒造の門を入ったすぐ脇に、大谷石でできた建物がある。来客に惣誉のテイスティングをしてもらうための施設となっている。地震の前は、物置として使っていた。二階建てで、一階は廃ダンボール置き場、二階は使わない昔のもの、大量の座布団とか、古いタンス、油絵のカンバスの木枠、書籍などが置かれていた。内部の壁には漆喰が塗られており、それが地震で崩れて収納物の上に降り掛かった状態であった。外壁の大谷石は南北に開いたようになり、二階の上半分の石が崩れて落ちてしまっていた。唯一、屋根だけは瓦を葺き直してすぐだったため、崩れずにちゃんと乗っかっていた。

まずは、中の物を運び出すことからである。とても急な階段を昇り降りして2階の収蔵物を下ろす。地震が起きてから一年が過ぎていた2012年4月、製造設備の修理から始まった工事がほぼ落ち着いてきて、生活施設の修復が動き始めていた。

 

大谷石は宇都宮市の北部、大谷町で採れる石材である。塀に使われていたり、栃木県のこの地方では蔵に使っているところも多い。断熱性能が高く、内部は夏でもひんやりしている。ただ、モルタルの目地で積み上げてあるだけなので、地震には弱かった。今まで、少なくとも明治時代からは、東日本大震災のような大きな揺れはなかったということだ。

だれが、この崩れた石蔵を元のようになおすことができるのか?建設会社に相談すると、全ての石を、鉄筋を通しながら一から積み直すしかない、と言う。また、内側に鉄筋コンクリートの壁を造って、その壁に大谷石の壁を固定する、などとも言う。いずれにしても、非常に大掛かりな、費用もかかる方法である。 半倒壊した住居付き事務所の設計を依頼していた先生の(私の古巣の)設計事務所が、大谷石の会社を探してきてくれた。宇都宮市大谷町の古くからの大谷石のプロである。旧帝国ホテルの大谷石も私が積みました、という親方が来た。心強い。彼らの言によれば、大谷石の蔵の四隅を柱状の積み方で固めれば、地震で崩れない蔵になるという。しかし、外側に柱型が出ると、重いデザインになりすぎて垢抜けない。そこで、一階の天井周りと、二階の天井周りに、ぐるりと鉄骨の構造材をまわして、鉢巻のように石を内側から引っ張って固定する方法が、設計の先生から提案された。しかも、その鉄製の構造材がおしゃれなトラス状のものなのだ。模型を見せてもらって、感動した。美しい。実際の完成時には、この構造材の下端に和紙を貼ったパネルがはまり、内側に照明を仕込んだので構造材自体は見えなくなった。大人しい上品な印象の間接照明である。この鉢巻構造材と目地の強度で、耐震性能を満たすものとなった。

私が今回の先生の作品のなかで、最も好きな部分の一つである。

 

しかし、そこにたどり着くために、崩れた大谷石を取り除き、新しく積み直し、更には内部の漆喰の壁を削り落とし、洗いながし、きれいにしてくれた大谷の職人集団に感謝、そして拍手である。