惣譽酒造株式会社

台風の爪あと

2017
919
Tue

休日の朝は、一本の電話で始まった。となりの家からの、「おたくの木が倒れてきた。見に来て。」という、電話だった。

昨夜は台風18号の暴風が吹き荒れていて、目が醒めてしまうほどの、ものすごい音であった。背の高い杉の木が1メートル位の高さでポッキリと折れてしまっていて、お隣の2階のベランダの屋根に倒れ掛かっている。しかも2本。台風の風にあおられて、耐えきれなくなったのだ。怪我したり、人的な被害がなかったのを良しとするしかない。しかし、本当に恐ろしい迷惑なことである。

「この状態見てると、何にもやる気なくなっちゃう。」と、つぶやかれて、小さくなってゴメンナサイと、謝った。

大木を伐採する専門の人に来てもらって、撤去することになったが、今日明日はこのままで我慢してもらうしかない。

この地方の田畑の広がる風景のなかのあちらこちらに、屋敷森のこんもりした姿がとても立派に映る。杉や桧の鬱蒼とした木々が家や納屋を北関東のからっ風から守って立っている。しかし、その木々も、全く手入れをしないで立派な屋敷森になっているわけではない。その家の住人が、枝払いをしたり、下草を刈ったり、傷んだ木は切ったりして、整えているから、美しく保たれるのである。しかし、この手入れというものが容易ではない。すぐに木は大きくなる。風通しが悪くなると、すぐに虫がつく。すると、幹が弱くなり、風雨や雪で倒れて、近隣に被害を及ぼす。大きくなってしまった木の手入れは自分ではできないから、庭師に頼まなければならない。お金もかかる。なかなか、庭木ばかり気にしていられないので、後回しにしていると、ますます繁って、余計大変になっていくのである。都会の住宅地でも同じことかもしれないが、田舎の木は本当に大きいように思える。

 

義父は、こうした庭木の手入れにも詳しくて、ちょっとした剪定などは自分でやっていた。よく身体の動く人である。そして、工場内を整備するために切った杉や、ケヤキなどを材木屋に製材してもらい、柱や板材にして、会社裏の倉庫の片隅に保管してあった。十分に乾燥させてから、建築の材料に使用する。

新しい建物の酒米倉庫の内部にその杉板が貼ってある。石蔵試飲室の大きなテーブルは工場内に生えていたケヤキを分厚い板に製材したものである。

「あのケヤキが、使えるだろう。」と、職人と保管場所に行って選ぶというのは、最高に贅沢だと思う。

 

義父のようなことはできなくても、数年に一回は庭木の手入れを頼みたい。小さな木ぐらいは、自分たちで伐ってみたい。 美しく手入れされた樹木のある酒蔵は、美味しい酒ができていそうである。

しかし、ふと気がつくと、大木になって、近所に倒れていく庭木たち。

なんとも、悩ましい。