惣譽酒造株式会社

お盆の怪

2018
826
Sun

 うちのお墓は向かいの精米所の隣の、萬福寺の墓地にある。お盆は提灯を提げて、お墓参りをする。歩いて5分で行けるので、楽にお墓参りができて、とても良い。ご先祖さまが帰ってくるので、お盆を迎える前に、あらかじめ卒塔婆をお寺からいただいてある。この、卒塔婆をいただく法要が、施食会である。檀家が皆お寺に集まって、お経を上げてもらい、お焼香をして各家の卒塔婆をもらって帰ってくる。私が施食会に参加し始めて、もう10年ぐらい経ったのだろうか。嫁に来たころはおばあちゃんが、やがて母が、いつのまにか私が、仏様の供養をしている。

数年前の8月、地震で住居や事務所が崩れて工事をしていたとき、とても忙しい時期があって、施食会に誰も出席できなかったことがある。実のところ、その日が施食会だということを忘れていたのだ。班長さんが、惣誉の事務所に卒塔婆を届けてくれた。

「これ。持ってきましたから。」

「あっ。スミマセン。(そうでした、今日でした!)」

その頃、私たち家族は、両親の家の仏間で寝起きしていて、その卒塔婆を自分たちの寝ている部屋に持って帰り、まだお盆の準備もできていない仏壇の横において、その夜は寝床についた。

その夜半のことである。

かーん、かーんと空調の配管が何かに叩かれているような音がして、目が覚めた。しばらくすると、静かになったので、目を閉じて眠ろうとすると、今度は廊下からの入り口のふすまがガタガタと揺れた、ような気がした。何だか恐ろしくなって、明かりをつけた。主人はスヤスヤと眠っている。起こそうかと思ったが、しばらくじっとして、明かりをつけたまま横になっていたら、そのまま眠ってしまったようだった。

朝になり、慌てて仏壇をきれいに掃除して、お供えをした。やはり、施食会を忘れていたという自責の念が、昨晩のような夢なのか現実なのかを見させたのか、それ以来、施食会にはそそくさと出かけている。しかし、主人はぐっすり寝ているというのは、どういうことよ!

私ひとりに覆いかぶさらないでくださいよ!

 

お盆は家族が皆帰ってきて、久しぶりに賑やかな食卓となる。ご先祖さまだけでなく、かわいい子どもたちも帰ってくる。あれを食べさせようか、これを食べさせようか、いつもより買い物も盛大にして、冷蔵庫を満たしておく。若い頃、私も実家に子供を連れてお盆の里帰りをすると、母があれもお食べ、これもお食べと、次々に並べてくれたのを思い出す。こんなに子供が帰ってくるのが嬉しいのだから、私もまた、実家に帰らなくてはと思い至る。

 

息子の声が、とても低くなって、実家の父親の声に似ている。

息子の声を聞きながら、父の声を思い出すのも、お盆の供養になるかしらと、ひとりで思う。